杉本博司 本歌取り––日本文化の伝承と飛翔––
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西洋において、真似ることは「堕落」であった。日本において、真似ることは「昇華」であった。和歌の伝統手法である「本歌取り」は、いにしえに詠まれた歌の心の一部を借り受けて、今の世の心のありさまを接木するという「うたよみ」の作法であった。真新しい時代精神は、古き良き時代を否定することなく、昇華して、新しい時代へとその魂を引き継ぐのだ。
私はその作法は、和歌だけではなく、茶や花、香り(香道)やかたち(建築)にまで連綿と受け継がれてきたのだと近頃思う。いわば「本歌取り」は日本文化の通奏低音なのだ。
私は現代美術作家として、その作法を受け継ぎたいと思う。
——–杉本博司
著者:杉本博司
頁数:304ページ(カラー:252ページ)
仕様:A4変形・ソフトカバー・観音有
デザイン:下田理恵
ISBN:978-4-9912756-0-9
杉本博司はかつて、自身の作家活動の原点ともいえる写真技法を和歌の伝統技法である本歌取りと比較し、「本歌取り論」を展開しました。このなかで杉本は、日本文化の伝統は旧世代の時代精神を本歌取りすること、つまり古い時代の感性や精神を受け継ぎつつ、そこに新たな感性を加えることで育まれてきたものであろうと述べています。さらには、日本だけでなく世界中の文化に本歌を求め、自身の創作においても本歌取りを試みています。
本書では、写真技法のみに留まらない更なる「本歌取り論」の展開を試みます。時間の性質や人間の知覚、意識の起源といった杉本が長年追求してきたテーマを内包しながら、千利休の「見立て」やマルセル・デュシャンの「レディメイド」を参照しつつ独自の解釈を加え、新たな本歌取りの世界を構築します。写真作品《天橋立図屏風》とその発想の源泉となった《三保松原図》、春日大社に関わりのある《金銅春日神鹿御正体》とそれを本歌とした《春日神鹿像》ほか、国宝を含むさまざまな名品と杉本作品、杉本による名品の取り合わせ。作品とそこに添えられたエッセイから、杉本博司という現代美術作家の制作の源泉を紐解きます。
杉本博司
1948年東京生まれ。1974年よりNY在住。活動分野は、写真、彫刻、インスタレーション、演劇、建築、造園、執筆、料理と多岐にわたる。2008年建築設計事務所「新素材研究所」、2009年公益財団法人小田原文化財団を設立。日本の伝統芸能振興に努め、国内を始めパリ・オペラ座、グッゲンハイム美術館(NY)、リンカーンセンター(NY)、エスパニョール劇場(マドリード)など世界各地で公演を手掛ける。1988年毎日芸術賞、2001年ハッセルブラッド国際写真賞、2009年高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)受賞。2010年秋の紫綬褒章受章。2013年フランス芸術文化勲章オフィシエ叙勲、2017年文化功労者。2023年日本芸術院会員に選出される。
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